パチンコ・パチスロの攻略情報提供会社を相手取った損害賠償等請求訴訟で、原告勝訴の判決が、昨年12月から今年2月にかけて新聞報道によりわかっただけでも4件相次いだ。購入した攻略情報に従えば「確実に勝てる」と思い込まされ、多額の情報料等を支払った原告の「これでは詐欺だ」という主張を裁判所が認めた内容。
だまされたファンが直接こうむる経済的被害のほか、虚偽情報から生じるファンのホール営業に対する誤解、不審等、この種の攻略情報提供商法がもたらす弊害に手を焼いてきた業界にとって、原告勝訴の連続判決は大きな朗報といえる。判決を通じて明らかになった騙しの手口の一端を示すとともに、2月末現在、判決がすでに確定している2つの訴訟でそれぞれ原告代理人を務めた藤森克美、竹之内智哉両弁護士に判例解説の寄稿をお願いした。被害が後を絶たない攻略情報提供商法への警鐘としたい。
原告勝訴の判決が出た4つの訴訟の被告は、いずれも「株式会社日本シークレット情報サービス」(本社・横浜市)。
判決言い渡しは、平成18年12月13日(静岡)、今年1月29日(名古屋)、同年2月14日(仙台)、同20日(福岡)と各地方裁判所で続き、被告に対し、それぞれ約71万円、約540万円、約30万円、約214万円を原告に支払うよう命じた。このうち静岡、仙台、福岡各地裁ではパチンコの、名古屋地裁ではパチスロの各攻略情報をめぐってそれぞれ争われた。
これら判決については、それぞれ一部の新聞で報道された。
静岡地裁の判決について、静岡新聞は「パチンコ攻略情報『虚偽』 提供会社に71万支払い命令 / 静岡地裁」の見出し(2段)で、「裁判官は『被告が原告に提供した攻略情報は何ら根拠がない虚偽の情報と認められる』と指摘。『情報料などとして現金を支払わせたのは詐欺行為』とした」(平成18年12月14日夕刊3面)と伝えた。
名古屋地裁の判決は、朝日新聞が「パチスロ必勝法 540万円支払い命令『業者の情報虚偽』 / 名古屋地裁」の見出し(3段)で報道。これによると、「裁判官は、同社(被告会社)について『攻略情報に従えば確実に利益を上げることができるとの断定的判断を提供し、男性(原告)はそれを真実と誤認した』と認定。消費者契約法に基づき契約を取り消し、同社の不当利得返還義務を認めた。さらに『攻略情報が虚偽と知っていたと推認できる』と指摘。同社の不法行為も認定し、損害賠償としての請求も認めた」(平成19年1月30日名古屋版朝刊27面)とした。
仙台地裁判決について、河北新報は「『当たらぬパチンコ必勝法伝授は詐欺です』 提供会社に賠償命令/仙台地裁」の見出し(4段)で、「裁判官は『女性(原告)は同社(被告会社)の指南通りにパチンコを打ったが、当たらなかった。同社は情報料名目で金をだまし取ったと言える』と述べた」(同年2月15日朝刊30面)と報じた。
福岡地裁の判決は西日本新聞など数紙が報道。同紙は「パチンコ攻略情報料 福岡地裁が返還命令 絶対稼げる…はずがない」の見出し(3段)で「判決では『パチンコは、各台のくぎの配置や遊技者の玉の打ち方で出玉の数が変動する遊技機で(同社の=被告会社の)攻略情報は不確実な情報』と判断した」(同月22日朝刊35面)と伝えた。
誘い、つり上げ…騙しの手口
静岡地裁の判決書から
(1)原告が見たパチンコ雑誌に掲載されていた広告には、期間を限定して「女性の方に限り会員登録料無料&攻略情報料を全機種半額にて御提供!」と記載されていた。
(2)広告にあった電話番号に電話した原告に対し、応対した被告会社の従業員は「当社の手順を使えば5000円から7000円で当たりが来ます」「21万5000円払えば当たりが来ます」などと言った。
(3)原告が被告会社を訪問した際、応対した被告会社従業員は「21万5000円の攻略法は手順が難しい。57万円の方が手順が簡単です」と言って、CR大海物語M56の攻略法を勧めた。原告はこれを購入することにし、会員登録契約を締結するとともに、情報料(会員登録料を含む)として57万円を支払い、攻略法の手順書を受取った。
(4)その後、同会社内で実際のパチンコ台を使い、攻略法手順書通りの打ち方指導を受けた。この際、同従業員は実演代金10万円を支払うよう要求、原告が断ったところ、「では5万円でいいです。5万円は僕の方で立て替えておきますから」と応じたため、原告は5万2500円を支払った。(被告会社のパンフレットには「出張・実演無料システム」と記載されている)
(5)さらにこの後、同従業員から軍資金として2万円を渡され、いっしょに上野に行ってパチンコ店2軒で実践。当たりが同従業員には来たが、原告には全く来なかった。
(6)原告はその後、地元のパチンコ店で攻略法の手順を試したところ、手順書に記載の通り、イルカ予告が2回以上発生してリーチとなるものの、待っていても全く当たりが来ないまま、結局、2万円を費やした。そこで原告は被告会社に電話をかけ、その旨を伝えたところ、応対した従業員は「セットは完了して、手順は完璧にあっているが、魚が口をパクパク開けているか」と言った。原告は確認できなかった旨答えた。
名古屋地裁の判決書から
(1) 原告は雑誌に掲載されていた広告を見て被告会社に電話、地元で被告会社従業員と会った。この際、同従業員は、情報提供についてのパンフレットなどを渡しながら、被告会社は人件費を惜しまず人を使ってパチスロの攻略情報を収集している、パチスロ・メーカーの人間とパイプがありパチスロの攻略情報を取得している旨説明した。パンフレットには「充実したシステムだから、安心・確実・大勝利間違いなし!!」などと記載されていた。
(2)原告は「マスターグレード会員」になることとし、会員登録を申し込み、会員登録料52万5000円とパチスロ「北斗の拳」の攻略情報料63万5000円の計116万円を現金で支払い、「北斗の拳」の攻略情報を渡された。
(3)契約締結後、原告は同従業員といっしょにパチンコホールに行き、攻略情報を試した。しばらく遊技した後、同従業員は「用事があるから帰ります。私の遊んだ台を使ってください」といって帰った。同従業員には当たりは一応あったものの、収支はマイナス。原告にはまったく当たりが来なかった。
(4)それ以降、原告は教えられた通りの攻略情報を利用して、何回か「北斗の拳」で遊んだが、まったく当たりが来なかった。このため何度か電話を被告会社にかけた。応対した従業員は「おかしいですね。やり方が間違っているのではないですか」などの返答を重ねた後、「もっと上のクラスの会員になれば、やり方が簡単な攻略情報をお教えします」と回答するに至った。
(5)そこで、原告は最初とは別の従業員とまた地元で会った。同従業員から「会員のグレードを上げれば大丈夫。VIP会員になれば、簡単でしかも確実に当たる攻略情報をお教えします」と説明され、「登録するには105万円必要ですが、足りない分は私が何とかします」と言われたので、現金85万円を支払った。「北斗の拳」の新しい攻略情報を記載したメモを受取り、パチンコホールにその従業員と行き、「北斗の拳」で遊んだが、まったく当たりは来なかった。
(6)その後も当たりが来ないので、原告は何度も電話。また別の従業員と地元で会った。同従業員は「シルバー会員になれば、もっと有益な情報が手に入り、確実に当たります」と説明。原告が登録料200万円を所持していないと伝えると、従業員は「お金がないならサラ金から借りて払えばいい。パチスロでいくらでも稼ぐことができるのですぐに返すことができる。今回は特別に125万円でいい」と言った。そこで原告はサラ金から30万円を借りて、シルバー会員の登録料の一部として支払った後、さらに別の従業員に地元で改めて登録料の残額95万円のうち94万円をサラ金から借りて支払った。同従業員は1万円を免除、こんどはパチスロ「押忍!番長」の攻略情報を渡した。この際もいっしょにパチンコホールに行ったが、2人とも負け、原告が文句をいうと、同従業員は「打ち方が悪い」と怒り始める始末。
(7)その後も原告は何度もやったが、まったく当たらないので、今度は被告会社の本社に行きお金を返してほしいと申し出た。これに対し応対した従業員は「もう一つ上の会員になってみませんか。そうすれば大丈夫です。当たります」といい、「本当は登録料が1000万円だが、特別に今まで払った分が1000万円になればいいとします。サラ金から今借りられるだけ借りて払ってください。それでも足りない場合はパチスロで当たったときに払ってくれればいいですよ」と勧誘。原告はサラ金から163万2000円を借りて支払い、また「北斗の拳」の攻略情報が書かれた紙を渡された。しかし、攻略情報に基づいてパチスロで遊んでも勝てず、さらに被告会社のトレーニングルームで打ち方の練習をしても勝つことはできなかった。
判例解説
詐欺の不法行為が成立 訴えは氷山の一角
弁護士 藤森克美(静岡の訴訟・原告代理人)
(1)静岡地裁は2006年12月13日、横浜市のパチンコ攻略情報提供業者の(株)日本シークレット情報サービス(以下シー社)と当時の代表取締役個人に対し、合計金71万2500円(内訳は、会員登録料を含む攻略情報料57万円、実演代金5万2500円、慰謝料3万円、弁護士費用6万円)の支払いを命じる判決を言渡しました。
事案は2005年からパチンコを楽しむようになった静岡県内に住む女性(当時56歳)が、コンビニで買ったパチンコ雑誌に載っていたシー社の「2005年12月1日~2006年2月14日の期間中女性のみ全機種半額」という広告に引かれ、電話したところ、遊技第三情報部長が応対し、「その人に合ったプロをつけ手順を教える」「当社の手順を使えば、5千円か7千円で当たりが来る」「21万5千円払えば当たりが出る手順を教える」と答えました。女性は新横浜駅近くの同社を実際に訪ね、ビルの2フロアーを借りていることを目で確かめました。
ところが担当者は「21万5千円の攻略法は手順が難しい。57万円の攻略法の方が手順が簡単」と勧めるので、それを誤信し、近くの銀行で現金を引出して支払い、手順書を受け取りました。その後担当者から実演代金10万円の請求があり、予想していなかった女性が渋ると、5万円と消費税でいいと言い出し、女性は結局5万2500円を支払いました。シー社内においてある大海物語の台で手順書通りに打ち方を教わり、3回練習しました。
その後「軍資金」として2万円を渡され、東京上野のパチンコ店2軒に連れて行かれ、担当者は2軒とも当たりを引いたが、女性は当たりが出せませんでした。担当者から「始めの手順だけが違っている。そこを直せば大丈夫」と言われ、東京駅で別れました。しかし地元に戻ってパチンコ店でやってみたが当たりが出ず、解約を申し出たが、シー社は応じず、その内に不眠、不安、食欲低下などの心因反応が出、精神科に通院するようになり、私に相談委任することになったものです。
(2) 2006年3月14日提訴しました。請求の根拠は、詐欺の不法行為を主位的請求とし、不当利得(詐欺による取消、消費者契約法の不実の告知や断定的判断の提供による取消、錯誤無効、債務不履行による解除)を予備的請求として構成しました。被告側は弁護士を立てずに、契約書の印刷文字に書いてあることを楯に、横浜簡裁へ移送せよとの申立をして抵抗し、それが却下されると、全面的に争う答弁書を提出して来ました。その後準備書面を提出して来るも裁判の日に出頭することはありませんでした。原告側は、原告本人、担当者、情報部長、代表取締役を証人申請し、裁判所も全員を採用決定しましたが、被告側は遂に誰一人出頭せず、原告本人だけの証拠調べで終了しました。
(3)判決は、原告がシー社の提供した攻略情報のとおりの方法で打ってみても全く当たりを引くことはできなかったこと、従業員が説明した「魚が口をパクパク開ける」映像については、その存在自体をパチンコ台「大海物語」のメーカーである三洋物産が否定していることからすれば、攻略情報自体、何ら根拠のない虚偽の情報であったと認められるとし、詐欺の不法行為の成立を認定し、冒頭の判決に至ったものです。控訴はなく確定しましたが、被告側から任意の支払いがなく、シー社の銀行預金の差押えをしたところ、約44万円の預金しかなく、千葉市、大阪市、宮崎県の3名から差押え、仮差押えが競合しており、全額の回収までには時間がかかりそうです。
(4)シー社には当該判決後も、今年に入ってから名古屋地裁、福岡地裁等で原告全面勝訴判決が出ておりますが、相変わらず営業を続けているところが問題です。私のパチンコ・パチスロ攻略情報詐欺被害の受任件数は、全国各地からが昨年42件、今年に入ってからも9件あります。愛好者の皆さんがこの手の詐欺被害に遭わないよう、私は折に触れ、警鐘を鳴らす所存です。又、警察の出番でもあります。
判例解説
存在しない必勝法「虚偽」認定は画期的
弁護士 竹之内智哉(名古屋の訴訟・原告代理人)
1.事案の概要
被害者は、パチスロ雑誌に掲載されていた(株)日本シークレット情報サービスの広告を見て次の特徴に興味を持ち、この会社に電話しました。この会社の特徴は、従業員が客の目の前で実際に攻略法を実演すること、この会社が設置しているトレーニングルームのパチスロ機で攻略法を練習し習得することができることのようです。
この会社の従業員は、会社のある横浜から名古屋までわざわざやって来て、被害者に会って勧誘し、会員登録料と情報料116万円を支払わせます。被害者は買った情報を使い、何度もパチスロをしますが一向に当たりません。
なお、この会社の従業員も一緒にホールに行ってパチスロで遊んでいるのですが当たっていません。小職のような第三者からみると、この時点で怪しいと気づくのではないかと思うのですが、被害者がパチスロのファンであることと、この会社の従業員が言葉巧みに言い訳することで、怪しいという気持ちがあまり発生しなかったのだと思います。
被害者が当たらない旨を電話で文句を言うと、やり方が悪い、もっと上のランクの会員になれば簡単な攻略法を教えると逆に勧誘され、被害者は契約をしてしまいます。
被害者は、会社に支払うお金はなかったのですが、会社の従業員から、パチスロで儲けることができ簡単に返済することができるから、消費者金融でお金を借りて支払うよう言われ、借金してまで攻略情報を購入してしまいます。
消費者金融からお金を借りさせてまで、被害者を騙すことは非常に悪質で、許し難い行為です。被害者も、このとき少しでも冷静に考えてくれれば、ここまで被害を受けることがなかったのではないかと思っています。
被害者は、結局、同じ事を合計4回繰り返し、合計約480万円を会社に支払いました。
2.訴え提起
被害者は、全く当たらないことから騙されたと気づき、訴えを提起しました。
パチスロに、必勝法は存在しません。もし、存在するのであればみんなが楽しめる遊技ではなくなってしまいます。存在するはずのない情報を売っていることは詐欺以外のなにものでもありません。
ですから、裁判では、会社に対し、詐欺によってお金を騙し取られたとして不法行為責任を追求しました。
また、消費者契約法という法律には、確実でないものが確実であると誤解させるような言い方をして契約させた場合に契約を取消すことができるという規定があります。会社は、必ず勝てる情報を販売する旨の宣伝をしていましたので、この規定を使い、一連の攻略情報の売買契約を取消す主張を不法行為責任の追及と同時にしました。
3.判決
判決は、被害者側の主張を認め、消費者契約法に基づく取消しにより、会員登録料、情報料の返還を認めました。
さらに、会社の提供した攻略情報は全く虚偽であると推認することができると認定し、また会社自体も攻略情報が虚偽であると知っていたと推認すべきであると認定し、不法行為責任を認めていただきました。
裁判所が、攻略情報自体が虚偽であると認定したことは、画期的な判決であると思っています。
【日遊協広報誌「NICHIYUKYO」2007年3月号より】